2007
11/19
02:37
My Little Girl 1
Category : My Little Girl series(コナン・新ちび蘭)
―――ったく、どこに行ったんだよ!?
新一は雨のトロピカルランドの中を、蘭を探して必死に走っていた。
―――蘭!!一体何があったんだ!?
もうすっかり夜になっていた。後10分ほどで閉園の時間。雨のせいもあり、遊びに来ていた客は皆、出口に向かって歩いていた。その中を逆走するように、新一は走る。
今日は、蘭とトロピカルランドに遊びに来ていた。空手のと大会で優勝したご褒美に・・・。最近は、新一が事件で呼び出されることが多く、あまり2人で出かけることもなくなっていたので、久しぶりに蘭と2人で楽しい休日を過ごすはずだったのだが・・・。2人で乗ったミステリーコースターで殺人事件が起き、とんでもないデートになってしまった。事件が解決し、やっと警察から解放されても、蘭はずっと泣いていて・・・。
「しょうがね―な―、ちょっと待ってろよ」
「?どこに行くの?」
「良いから、そこから動くなよ!」
そう言って、新一は駆け出した。蘭に、今日の記念とお詫びに、昼間見かけて蘭がほしそうにしていたペンダントをプレゼントしようと思ったのだ。雫型の、中に天使の羽が見えるかわいいペンダント。
きっと蘭に似合うはず。
これを蘭に渡して・・・そして、自分の気持ちを言うつもりだった。
―――ずっと、好きだった、と・・・
なのに。
蘭がいたはずの場所へ戻ってみると、蘭がいなかったのだ。すぐに近くを探したが、どこにもいない。怒って先に帰っちまったのかな?とも思ったが、蘭の性格からして、新一に何も言わずに帰
るというのは考えられなかった。そのうち雨も降ってきて、閉園時間も迫り、人がどんどん出口へ向かって流れ始めたが、その中にも蘭の姿は見当たらなかった。
―――どうしたんだ?どうしてどこにもいないんだ?蘭―――!!
迷宮無しの高校生名探偵といわれる新一も、こと蘭のことになると途端に普通の高校生に戻ってしまう。気ばかり焦って、冷静な判断ができない。蘭はそんなこと知る由もないが・・・。
新一は、もう一度出口のほうまで戻り、また端から探していくことにした。蘭が、自分から行くとは思えないような建物の裏のほうも隅から隅まで・・・。
そして、ようやく見つけたその姿は―――
そこは、本当に人気のない、暗くて何もない空間だった。そこに、女の子が一人倒れていた。5,6歳くらいだろうか。新一は一瞬、迷子かと思った。迷った子供が、疲れて眠ってしまったのかと。
が、すぐに異変に気付いた。それは、その少女が着ている服・・・。それは、今日蘭が着ていた服と同じものだった。
新一はその少女の側に駆け寄った。雨でびしょぬれになっている少女を、そっと抱き起こす。その顔は・・・
「―――ら、ん・・・?」
小さい頃の蘭に、そっくりなその顔・・・だが、まさか・・・そんなことはありえない。
「おい、大丈夫か?おい―――」
少女の体を揺さぶり、声をかける。
「―――うっ・・・」
苦しそうにうめいて、少女がうっすらと目を開けた。そして、新一の顔を見上げる。
「・・・ん・・・ち・・・?」
「・・・!」
かすれて、聞き取れないくらい小さい声。だが、その口は確かに”新一”と言っていた・・・。
「蘭・・・蘭なのか?本当に?」
驚き、目を見開く新一を不思議そうに見る大きな瞳。
「何・・・言ってるの?わたし・・・イタッ」
起き上がろうとして、頭を押さえる。そのとき、新一は初めて蘭らしきその少女が、頭に怪我をしていて血が出ていることに気付いた。
「怪我・・・してるのか。―――とりあえず、帰ろう。話はそれからだ」
新一は、軽々と少女を抱き上げ、足早に出口へと向かった。少女は、まだ意識が朦朧としているのか、新一の腕の中でおとなしくしていた。
「・・・んいちィ・・・」
虚ろな目で新一を見つめ、新一の名を呟く。
「―――少し、眠ってろ。大丈夫、俺がついてるから」
と、新一が言うと、少女は小さく頷き、そっと目を閉じた。
「―――博士!博士!俺だ!ここを開けてくれ!!」
新一は阿笠博士の家にたどり着くと、大きな声で博士を呼んだ。呼び鈴を押そうにも、両手が塞がっているので出来ないのだ。
「―――なんじゃ、新一、どうしたんじゃ?」
中から阿笠博士が出て来て、新一を中に入れた。
「その子は?今日は、蘭君とデートじゃなかったのか?」
新一の腕の中で眠っている少女を、不思議そうな顔で見ると、博士が言った。
「―――あとで説明するよ。こいつ、怪我してるんだ。救急箱、出してくれないか?それからタオルと―――着替え、なんてね―よな」
「当たり前じゃろう。わしには娘も孫もおらんからなあ」
「しょうがねえな。俺、ちょっと家から昔の俺の服、取ってくるよ。男物だけど、ないよりましだろ」
「ああ、分かった。わしは、この子の怪我の手当てをしておいてやろう」
「頼む」
新一は、隣の自分の家へ走っていき、急いで子供の頃の服を探し出した。そして、トレーナーと半ズボンを取り出すと、それを手に、また阿笠邸へと引き返した。
「ワリィな、博士」
「うむ。とりあえず居間のソファに寝かせたが―――あの子は一体なんなんじゃ?」
「―――ゴメン、今はまだ、応えられねーんだ・・・」
「どういうことじゃ?」
「それより博士、女の子のパンツ、調達してきてくんねーか?」
「パ、パンツゥ?」
「ああ。さすがに俺もそんなもん持ってね―し」
「し、しかし、どうやって―――」
「近所にさ、5,6歳くらいの女の子がいる家、ねーか?そこに行ってさ、親戚の子が遊びに来てて、おもらししちゃったんだけど替えがないとか何とか言ってさ」
「う、うむ・・・そうじゃな。確か、3件先の家に小さい女の子がいたと思うが・・・」
「頼むよ、博士。俺が行ったら、ちょっと怪しまれそうだしよ」
「―――そうじゃな。よし分かった、行ってこよう」
「サンキュー、恩に着るよ」
新一は博士を送り出すと、改めて蘭らしきその少女の元へ行った。頭に白い包帯が巻かれて、顔色も良くなかった。雨に濡れてしまったから、風邪を引いたのかもしれない。新一は持ってきた着替えを置き、そっと少女の側にひざまづくと、おでこに触れてみた。
やはり少し熱い気がする。来ていた服は博士によって脱がされ、体にはバスタオルが巻かれ、その上に毛布がかけられていた。髪も一応拭いてあったが、まだ少し湿っていた。
「―――蘭」
そっと呟いてみる。博士に事情を説明したかったが、どう言えばいいのか分からない。新一自身でさえ訳が分からず、混乱しているような状態なのだ。
「・・・う・・・」
突然、少女が苦しそうにうめいた。
「蘭?どうした?」
「う・・・あ・・・いやあ!来ないで!」
「蘭!!」
激しく身を捩り、苦しそうに叫ぶ蘭。新一は驚いて、何とか落ち着かせようと、蘭を抱きしめるようにその体を覆った。
「蘭・・・蘭・・・!」
「こ・・・ないでェ!助けて・・・新一ィ・・・!」
「蘭・・・!俺はここだ。ここにいるから・・・!」
震える体を優しく抱きしめ、あやすように背中をさすった。
―――一体、何があった?蘭・・・!
何か、よほど恐ろしい目にあったのか、蘭の体はぶるぶると震えていた。
「蘭―――大丈夫だ。俺がいるから・・・ずっと側にいるから・・・」
背中をさすりながら、耳元に囁きつづけるうち、ようやく蘭は落ち着いてきたようだった。
「う・・・ん・・・新一・・・?」
うっすらと目を開け、焦点の定まらない目で新一を見る。
「蘭―――大丈夫か?」
「わたし・・・一体・・・ここは?」
「阿笠博士の家だよ。今、ちょっと出てるけど・・・蘭、話、できるか?」
「うん・・・大丈夫」
弱々しくではあるが、蘭は頷いて言った。
「俺と別れてから、何があった?どうしてあの場所を離れたんだ?」
新一は、なるべく優しい口調で聞いた。
「あの時・・・」
蘭は、少し遠い目をして、何か思い出そうとするように話し始めた。
「新一が行っちゃってから・・・その場所でちゃんと待ってようと思ってたの。そしたら、あの―――新一が気になるって言ってた、あの黒ずくめの服の男の人が・・・いたの」
「あの2人が!?」
「ううん、1人よ。その時は、髪の長い人はいなかったの。それで・・・何か、建物の裏のほうに入って行ったの。別に、何かしようと思ってたわけじゃないの。ただ、新一に知らせようにも、新一、どこに行ったのか分からなかったし・・・。あの人がどこへ行くのか・・・ただそれだけを確かめようと思って・・・。その人の後をついて行ったの」
「―――馬鹿!どうしてもう少し俺のことを待ってなかったんだっ」
つい、声を荒げてしまう。蘭は、ちょっと怯えたように身を竦めた。その姿が、少女のものだけに、新一はすごくいけないことをしたような気がして―――ハッとした。
「―――ゴメン。俺のために、してくれたんだよな」
蘭はちょっと首を振って、また口を開いた。
「―――ホントに馬鹿なこと、したと思ってる。わたし―――そこで、とんでもないもの見ちゃったの」
「とんでもないもの?」
蘭はこくんと頷いた。大分、意識がはっきりしてきたようだった。
そして―――意識がはっきりして来るにつれ、蘭は違和感を感じ始めていた。
―――何かがおかしい。何かが・・・
それがなんなのか、わからないまま、話を続けた。
「その人は、建物の裏の―――人気のない薄暗い場所にいたの。そこには、もう1人男の人がいて―――その人はアタッシュケースを持ってた。それを黒ずくめの男の人に渡していて―――」
「おい、それって―――」
「ん―――。何かの取引みたいだった。すぐに新一に知らせようと思って―――戻ろうと思ったら、いきなり後ろから棒のようなもので殴られたの」
「それが、髪の長いほうの奴か?」
「ん。それで、わたしは倒れて・・・気を失う前に、何か―――カプセルのようなものを飲まされたの」
「カプセル?」
「うん。男が、『組織が新開発した毒薬』だって言ってた。『死体から毒が検出されない完全犯罪が可能なシロモノ』だって・・・」
蘭は、その時の事を思い出したのか、ブルっと身震いすると、毛布をぎゅっと握り締めた。
「わたし―――殺されちゃうんだって思った。もう―――新一に、会えないんだって・・・」
「蘭・・・」
「でも・・・良かった・・・。わたし、生きてるんだよね―――」
「・・・ああ・・・」
新一は頷いた。だが、その表情は、どこか悲しげに歪んでいた。
「?・・・新一・・・?どうしたの・・・?」
「蘭・・・おまえ、今自分がどんな姿してるか・・・わかんねーか?」
「姿って・・・」
言われて、蘭は気付いた。この違和感。これは・・・そして、恐る恐る自分の手を目の前に上げてみた。
「―――――!!」
それは、今までの自分の手ではなく・・・小さな、子供の手だった・・・。そして、そっと毛布をめくり、バスタオルに巻かれた自分の姿を見下ろした―――。
「・・・これ・・・何?どうして・・・」
体が、ガクガクと震えだす。何がどうなってしまったのか、わからない。そういえば、声も子供の声・・・。感じた違和感はこれだったのだ―――。崩れそうになる蘭の体を、新一が支えるようにして抱きしめた。
「―――し、んいち・・・わたし・・・」
「蘭・・・大丈夫。俺が、側にいるから―――。守ってやるから―――」
蘭は、新一の真剣な声と、優しい腕のぬくもりに、少しずつ体の震えが治まってくるのを感じていた。
「その―――毒薬が、どんなもんなのかわかんね―けど・・・原因は、それ以外に考えらんねー。蘭・・・、その薬のこと、もう少し詳しく話せるか」
「・・・詳しくって言っても・・・」
「分かることだけで良いよ」
優しい口調の新一に、蘭は安心して話し始めた。
「ん・・・。飲んだときは、別に何も感じなかったの。それが・・・あいつらが見えなくなった直後位から、急に体が熱くなって・・・体が・・・骨が溶けるんじゃないかと思うくらい・・・。心臓がすごく苦しかった。鼓動が早くなって、息苦しくって・・・体が焼けるような感覚の後・・・意識がなくなったの」
「―――そうか・・・」
「ホントに・・・もうだめだと思った。だって、あの長髪の男は、必ず死ぬって言ってたから・・・」
「―――そいつは、本当にオメエが死んだと思ってるだろうな。闇取引きの現場を見られたんだ。ほおって置くわけはねえ。もし、生きていると分かったら・・・」
「分かったら・・・?」
蘭の体が、また恐怖に震え始めた。
新一が、抱きしめる腕に少し力を入れた。
「新一・・・わたし・・・どうなるの?こんな体になっちゃって・・・どうしたら良いの?」
蘭の瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。震えが止まらない。頭が、おかしくなりそうだった―――。
新一は、蘭を安心させようとするようにその髪を撫で、そっと瞳に口付けた。ビックリして、目を見開く蘭。そんな蘭を優しく見つめながら、新一は口を開いた。
「蘭・・・好きだよ」
蘭の目が、これ以上ないという位、大きく見開かれる。
「・・・え?」
「俺・・・蘭が好きだ」
こんな時に言う台詞じゃないかもしれなかったが、新一はそうしなければいけない、と思ったのだ。
蘭は今、パニックに陥っている。新一だってそうなのだが・・・。一度殺されかけ、助かったと思ったら自分の体が小さくなっていて、さらに、また命を狙われるかもしれないと分かったら―――。パニックにならないほうがどうかしているというもの。新一は、そんな蘭をどうにかして安心させてやりたい、守りたい、と思った。それを、蘭に伝えたくて―――告白したのだ。
蘭は、ビックリしすぎて、体の震えが止まってしまっていた。
「新一・・・?今、なんて・・・」
「好きだって言ったんだよ。ずっと・・・ずっと前から好きだった。そして、これからも―――。俺が、ずっと側にいる。オメエを、守ってやる。だから―――泣くな。俺が絶対、オメエを元の姿に戻してやるから・・・心配するな」
優しく、包み込むような笑顔で見つめられ・・・。蘭の体から、少しずつ力が抜けていった。そして、その瞳からは、また涙が零れ落ちた。
「新一・・・ありがとう。わたし・・・」
「泣くなっつったろォ?ったく、泣き虫なんだからなー」
新一が呆れたように言った。
「だってェ・・・」
そのとき、ドアが開いて、博士が部屋に入ってきた。
「新一、持って来たぞ。―――おや、気がついたのかね」
「ああ、博士、サンキュー。蘭、俺の服でワリィけど、着替えとけよ。俺たちは部屋の外にいるから」
「ん、ありがと・・・」
蘭が弱々しく微笑んで頷いた。
「おい、蘭って―――」
「博士、こっち来て」
驚いて何か言いかける博士の腕を取り、新一は部屋を出た。
「―――おい!新一、どういうことなんじゃ?あの子は一体―――」
「あれは、蘭だよ」
「蘭くん―――じゃと?馬鹿な!ありゃ―どう見たって子供じゃないか」
「ああ―――とにかく、こっち来てくれよ。説明するからよ―――」
新一は、地下の研究室に博士を連れて行くと、今までのことを全て博士に話した。
「そんなこと―――信じられんのォ。人間の体が縮むなんて・・・。そんな薬が存在するとは―――」
「ああ。多分そいつらは、蘭が死んだと思ってるだろう。なぜか分からないが、蘭にはその毒薬が効かなかった。そのかわり―――あんな体になっちまった。その薬の中の成分の何かが蘭の体を縮めてしまった―――。それしか、考えらんね―んだよ」
「ふむ・・・。で、これからどうするつもりなんじゃ?」
「博士に、頼みがあるんだ」
「わしに?」
「ああ。―――蘭の体を元に戻す薬を作ってくれね―か」
「な―――なんじゃと!?」
博士が驚いて、目を見開いた。
「そんなこと、簡単にできるわけないじゃろう!?」
「分かってるよ。けど、こんなこと他に頼める人、いね―んだよ。蘭を―――1日も早く、元の姿に戻してやりて―んだ・・・。頼むよ、博士」
博士は、新一の目をじっと見つめていたが―――やがて、ふうっと溜息をついて言った。
「分かった―――。できるかどうか分からんが、努力してみよう―――。で、これから蘭君をどうするつもりじゃ?」
「それなんだよな。あの状態の蘭を見たら、おっちゃん卒倒しそうだし・・・。それに、あの黒ずくめの奴らが蘭のことを調べて、あの家に行ったりしたら厄介だしな・・・。とりあえず、今日はここに泊めてやってくんねーか?その後のことは、蘭とも相談しないと・・・」
「そうじゃな。ああ、さっきコンビニでおにぎりを買って来たんじゃ。新一も腹が減っておるじゃろう?持って行って2人で食べたらどうじゃ?」
「ああ、サンキュー。博士は?」
「わしは、ここでやりたいことがあるんでな。ああ、蘭君には、わしのことは気にせず自由にやってくれて良いと言っておいてくれんか」
「分かった。―――博士」
新一は部屋を出ようとして、足を止め、振り向いた。
「ん?なんじゃ?」
「―――サンキューな」
「―――いいんじゃよ」
「蘭、入っていいか?」
新一は、居間のドアをノックして言った。
「うん」
中から、蘭の声が聞こえた。
ドアを開け、中に入ると新一の持ってきた水色のトレーナーと紺の半ズボンをはいた蘭が、ちょこんとソファーに座っていた。髪も、もう乾いていた。
大きな目でちょっと不安そうに新一を見上げる蘭。その姿のかわいさに、新一はこんな状況だというのに、胸が高鳴ってくるのを感じた。
「―――新一?どうしたの?」
小首を傾げ、聞いてくる蘭。
―――スッゲー、かわいい・・・
「あ・・・なんでもね―よ。おにぎり、食うか?博士が買ってきてくれたんだ」
「うん、ありがと。博士は?」
「下にいるよ。やりて―ことがあんだって。―――蘭、今日はここに泊れよ」
「え?」
蘭がビックリして目を見開く。そんな表情も、とてもかわいく見えた。
「そんな姿でさ、帰りたくねーだろ?オメーもさ」
「う、ん・・・確かに」
「明日、今後のことを話し合おう。今日は、オメエも疲れてるだろうし。博士も自由にして良いって言ってくれてっから、遠慮すんなよ」
「―――新一は・・・?」
蘭は、不安そうに新一を上目遣いで見上げた。
「俺は・・・すぐ隣にいるし・・・」
「帰っちゃうの・・・?」
蘭の瞳がますます不安に揺れ、涙が溢れてくる。
―――うう・・・んな顔すんなって~~~
「いや、その・・・ほら、博士もいるしさ」
「・・・帰っちゃうんだ・・・」
蘭はしょんぼりして、下を向いた。必死に涙を堪えているようだった。
新一は観念して、
「・・・いるよ、俺もここにいる」
と言った。
「ほんと!?」
蘭がぱっと顔を上げた。新一が頷くと、うれしそうにニッコリ笑う。
―――か、かわいすぎる~~~
「良かった・・・」
「あ、そ、そうだ。おっちゃんに電話しねーとな」
「あ、うん。そうだね」
蘭は立ち上がって、部屋の隅にある電話のところへ行き、家に電話をかけた。
「―――あ、もしもし、お父さん、わたし・・・」
子供の声、と言っても女の子は声変わりがないので、ちょっと大人っぽい声を出せば、何とか誤魔化せるようだ。
「・・・うん、そう。博士が具合悪そうだから・・・。お年寄り一人じゃ、何かと大変でしょ?だから・・・うん、ゴメンね、じゃあ・・・」
ふう、と溜息をつきながら、蘭は電話を切った。あまり嘘をついたことのない蘭にはつらい電話だったのだろう。だが、振り向いたときには笑顔で新一を見ていた。
「おにぎり、食うか」
と、新一が笑顔で言うと、蘭はニッコリ笑って頷いた。2人でおにぎりを食べながら、しばらく他愛のない話をした。新一はこんな場合ながら、小さくなった蘭の姿に見惚れていた。小さな手でおにぎりを持ち、小さな口で一生懸命食べる姿が、あまりにも愛らしくて・・・。このまま、どこかに閉じ込めてしまいたい位、かわいかった。
新一の視線に気付いた蘭は、頬を赤らめ、上目遣いで新一を見た。
「なあに?新一。じろじろ見て・・・」
「や、別に・・・あのさ、蘭」
「え?」
「あのさ・・・さっきの話だけど・・・」
「さっきの話?」
蘭がきょとんとした顔で聞き返す。
「その・・・俺は蘭が好きだって言っただろ?」
新一が顔を赤くして言うと、蘭も真っ赤になって下を向く。
「う、うん・・・」
「―――オメエは?」
「え?」
「オメエの気持ち・・・俺、まだ聞いてね―んだけど・・・」
そう。実は、新一はさっきからずっとそのことが気にかかっていたのだ。蘭が自分のことをどう思っているのか・・・。嫌われてはいないだろうというのは分かるが・・・。幼馴染という関係はとても微妙で・・・居心地の良い分、その関係を壊したくなくて、ずっと告白できずにいた。誰よりも蘭の近くにいるはずだが、蘭の中で、自分がどういう存在なのか・・・。ただの幼馴染なのか、それとも自分と同じように想ってくれているのか・・・。
迷宮無しの名探偵にも、それは解けない謎だった・・・。
「蘭―――?」
下を向いて黙ってしまった蘭に不安を感じ、新一が蘭の顔を覗き込むようにして見た。
蘭は、真っ赤な顔をちょっと上げ、新一を見た。
ドキンッと新一の心臓が跳ね上がる。
「・・・いしょ」
「へ?」
「内緒・・・って言ったのっ」
再び赤い顔をして、俯く蘭。
「な、内緒って―――!」
なんだよ、そりゃ?人が必死の思いで告白したっつーのに・・・。
「・・・戻ってから・・・」
「え?」
「戻ってから、言いたいの。本当の・・・高校生のわたしに戻ってから・・・。それまで・・・待っててほしいの・・・」
「・・・・・」
「・・・ダメ?」
小首を傾げ、上目遣いで新一を見る蘭。新一が最も弱い表情・・・。そんな顔をされて、新一がダメと言えるわけがない。
「・・・分かったよ。待ってる・・・。でも、約束だぞ?」
「うん」
そう言ってニッコリ笑う蘭。そして、またまたその笑顔に見惚れる新一。
―――少しは期待してても良いってことかな・・・
おにぎりを食べ終わり、お茶を飲んでから、
「―――もう寝るか?疲れただろ、今日は」
と、新一が笑顔で言うと、蘭はちょっと恥ずかしそうに、
「うん・・・。あの、お風呂、入って良い・・・?」
「あ、そっか。入ってなかったよな。待ってろ、今準備してくっから」
新一は立ち上がり、お風呂の準備をするべく、部屋を出て行った。それを見送ると、蘭は小さな溜息をついた。両手を、目の前にかざして見る。
―――小さな子供の手。どうしてこんなことになってしまったのか・・・。あの時、新一の言うことを素直に聞いて、あそこで待っていれば・・・。後悔しても、もう遅かったが―――
―――ゴメンね、新一・・・。新一の気持ち、すっごくうれしかった・・・。わたしもずっと好きだったから・・・。でも・・・。
蘭は、また溜息をついた。
―――いつ、この体が元に戻るか分からない・・・もしかしたら、ずっと戻らないかもしれない。そしたら・・・こんな体になってしまったわたしよりも、もっと新一に相応しい人が現れるかもしれない・
・・。もちろんそんなことあって欲しくないけど・・・もしもそうなってしまったときに、新一の邪魔にはなりたくない・・・。それに、そんなの惨め過ぎるよ・・・。
蘭の瞳に涙が溢れる。それを堪えようと、フルフルと頭を振る。
―――ダメ、泣いちゃ!・・・新一は、言ってくれたもの。守ってくれるって・・・ずっと、側にいてくれるって・・・。今はそれを信じなきゃ―――それを・・・新一を、信じるしかないもの・・・。
一方、新一は・・・お風呂の準備をしながら、大きな溜息をついた。
「チェッ・・・元の姿に戻るまで内緒・・・か」
あんなふうに言われると、余計に気になってしょうがね―じゃねーか。―――こうなりゃ、早くあの黒ずくめの奴らを捕まえて、蘭を元の姿に戻すっきゃねーよな・・・。よしっ明日っから気合入れてく
ぞ!
風呂洗い用のスポンジを握り締め、なぜか気合を入れて風呂掃除をする新一だった・・・。
""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
やっちゃいました~。この話は原作に沿って、半永久的に(笑)続きます。あ、でも基本的にこれは推理ものではなく、恋愛ものなので、中間の推理しているときの話や、管理人が「かけない!!」と思ったものは飛ばしていきます。
そんなわけで、お楽しみいただけましたでしょうか♪
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新一は雨のトロピカルランドの中を、蘭を探して必死に走っていた。
―――蘭!!一体何があったんだ!?
もうすっかり夜になっていた。後10分ほどで閉園の時間。雨のせいもあり、遊びに来ていた客は皆、出口に向かって歩いていた。その中を逆走するように、新一は走る。
今日は、蘭とトロピカルランドに遊びに来ていた。空手のと大会で優勝したご褒美に・・・。最近は、新一が事件で呼び出されることが多く、あまり2人で出かけることもなくなっていたので、久しぶりに蘭と2人で楽しい休日を過ごすはずだったのだが・・・。2人で乗ったミステリーコースターで殺人事件が起き、とんでもないデートになってしまった。事件が解決し、やっと警察から解放されても、蘭はずっと泣いていて・・・。
「しょうがね―な―、ちょっと待ってろよ」
「?どこに行くの?」
「良いから、そこから動くなよ!」
そう言って、新一は駆け出した。蘭に、今日の記念とお詫びに、昼間見かけて蘭がほしそうにしていたペンダントをプレゼントしようと思ったのだ。雫型の、中に天使の羽が見えるかわいいペンダント。
きっと蘭に似合うはず。
これを蘭に渡して・・・そして、自分の気持ちを言うつもりだった。
―――ずっと、好きだった、と・・・
なのに。
蘭がいたはずの場所へ戻ってみると、蘭がいなかったのだ。すぐに近くを探したが、どこにもいない。怒って先に帰っちまったのかな?とも思ったが、蘭の性格からして、新一に何も言わずに帰
るというのは考えられなかった。そのうち雨も降ってきて、閉園時間も迫り、人がどんどん出口へ向かって流れ始めたが、その中にも蘭の姿は見当たらなかった。
―――どうしたんだ?どうしてどこにもいないんだ?蘭―――!!
迷宮無しの高校生名探偵といわれる新一も、こと蘭のことになると途端に普通の高校生に戻ってしまう。気ばかり焦って、冷静な判断ができない。蘭はそんなこと知る由もないが・・・。
新一は、もう一度出口のほうまで戻り、また端から探していくことにした。蘭が、自分から行くとは思えないような建物の裏のほうも隅から隅まで・・・。
そして、ようやく見つけたその姿は―――
そこは、本当に人気のない、暗くて何もない空間だった。そこに、女の子が一人倒れていた。5,6歳くらいだろうか。新一は一瞬、迷子かと思った。迷った子供が、疲れて眠ってしまったのかと。
が、すぐに異変に気付いた。それは、その少女が着ている服・・・。それは、今日蘭が着ていた服と同じものだった。
新一はその少女の側に駆け寄った。雨でびしょぬれになっている少女を、そっと抱き起こす。その顔は・・・
「―――ら、ん・・・?」
小さい頃の蘭に、そっくりなその顔・・・だが、まさか・・・そんなことはありえない。
「おい、大丈夫か?おい―――」
少女の体を揺さぶり、声をかける。
「―――うっ・・・」
苦しそうにうめいて、少女がうっすらと目を開けた。そして、新一の顔を見上げる。
「・・・ん・・・ち・・・?」
「・・・!」
かすれて、聞き取れないくらい小さい声。だが、その口は確かに”新一”と言っていた・・・。
「蘭・・・蘭なのか?本当に?」
驚き、目を見開く新一を不思議そうに見る大きな瞳。
「何・・・言ってるの?わたし・・・イタッ」
起き上がろうとして、頭を押さえる。そのとき、新一は初めて蘭らしきその少女が、頭に怪我をしていて血が出ていることに気付いた。
「怪我・・・してるのか。―――とりあえず、帰ろう。話はそれからだ」
新一は、軽々と少女を抱き上げ、足早に出口へと向かった。少女は、まだ意識が朦朧としているのか、新一の腕の中でおとなしくしていた。
「・・・んいちィ・・・」
虚ろな目で新一を見つめ、新一の名を呟く。
「―――少し、眠ってろ。大丈夫、俺がついてるから」
と、新一が言うと、少女は小さく頷き、そっと目を閉じた。
「―――博士!博士!俺だ!ここを開けてくれ!!」
新一は阿笠博士の家にたどり着くと、大きな声で博士を呼んだ。呼び鈴を押そうにも、両手が塞がっているので出来ないのだ。
「―――なんじゃ、新一、どうしたんじゃ?」
中から阿笠博士が出て来て、新一を中に入れた。
「その子は?今日は、蘭君とデートじゃなかったのか?」
新一の腕の中で眠っている少女を、不思議そうな顔で見ると、博士が言った。
「―――あとで説明するよ。こいつ、怪我してるんだ。救急箱、出してくれないか?それからタオルと―――着替え、なんてね―よな」
「当たり前じゃろう。わしには娘も孫もおらんからなあ」
「しょうがねえな。俺、ちょっと家から昔の俺の服、取ってくるよ。男物だけど、ないよりましだろ」
「ああ、分かった。わしは、この子の怪我の手当てをしておいてやろう」
「頼む」
新一は、隣の自分の家へ走っていき、急いで子供の頃の服を探し出した。そして、トレーナーと半ズボンを取り出すと、それを手に、また阿笠邸へと引き返した。
「ワリィな、博士」
「うむ。とりあえず居間のソファに寝かせたが―――あの子は一体なんなんじゃ?」
「―――ゴメン、今はまだ、応えられねーんだ・・・」
「どういうことじゃ?」
「それより博士、女の子のパンツ、調達してきてくんねーか?」
「パ、パンツゥ?」
「ああ。さすがに俺もそんなもん持ってね―し」
「し、しかし、どうやって―――」
「近所にさ、5,6歳くらいの女の子がいる家、ねーか?そこに行ってさ、親戚の子が遊びに来てて、おもらししちゃったんだけど替えがないとか何とか言ってさ」
「う、うむ・・・そうじゃな。確か、3件先の家に小さい女の子がいたと思うが・・・」
「頼むよ、博士。俺が行ったら、ちょっと怪しまれそうだしよ」
「―――そうじゃな。よし分かった、行ってこよう」
「サンキュー、恩に着るよ」
新一は博士を送り出すと、改めて蘭らしきその少女の元へ行った。頭に白い包帯が巻かれて、顔色も良くなかった。雨に濡れてしまったから、風邪を引いたのかもしれない。新一は持ってきた着替えを置き、そっと少女の側にひざまづくと、おでこに触れてみた。
やはり少し熱い気がする。来ていた服は博士によって脱がされ、体にはバスタオルが巻かれ、その上に毛布がかけられていた。髪も一応拭いてあったが、まだ少し湿っていた。
「―――蘭」
そっと呟いてみる。博士に事情を説明したかったが、どう言えばいいのか分からない。新一自身でさえ訳が分からず、混乱しているような状態なのだ。
「・・・う・・・」
突然、少女が苦しそうにうめいた。
「蘭?どうした?」
「う・・・あ・・・いやあ!来ないで!」
「蘭!!」
激しく身を捩り、苦しそうに叫ぶ蘭。新一は驚いて、何とか落ち着かせようと、蘭を抱きしめるようにその体を覆った。
「蘭・・・蘭・・・!」
「こ・・・ないでェ!助けて・・・新一ィ・・・!」
「蘭・・・!俺はここだ。ここにいるから・・・!」
震える体を優しく抱きしめ、あやすように背中をさすった。
―――一体、何があった?蘭・・・!
何か、よほど恐ろしい目にあったのか、蘭の体はぶるぶると震えていた。
「蘭―――大丈夫だ。俺がいるから・・・ずっと側にいるから・・・」
背中をさすりながら、耳元に囁きつづけるうち、ようやく蘭は落ち着いてきたようだった。
「う・・・ん・・・新一・・・?」
うっすらと目を開け、焦点の定まらない目で新一を見る。
「蘭―――大丈夫か?」
「わたし・・・一体・・・ここは?」
「阿笠博士の家だよ。今、ちょっと出てるけど・・・蘭、話、できるか?」
「うん・・・大丈夫」
弱々しくではあるが、蘭は頷いて言った。
「俺と別れてから、何があった?どうしてあの場所を離れたんだ?」
新一は、なるべく優しい口調で聞いた。
「あの時・・・」
蘭は、少し遠い目をして、何か思い出そうとするように話し始めた。
「新一が行っちゃってから・・・その場所でちゃんと待ってようと思ってたの。そしたら、あの―――新一が気になるって言ってた、あの黒ずくめの服の男の人が・・・いたの」
「あの2人が!?」
「ううん、1人よ。その時は、髪の長い人はいなかったの。それで・・・何か、建物の裏のほうに入って行ったの。別に、何かしようと思ってたわけじゃないの。ただ、新一に知らせようにも、新一、どこに行ったのか分からなかったし・・・。あの人がどこへ行くのか・・・ただそれだけを確かめようと思って・・・。その人の後をついて行ったの」
「―――馬鹿!どうしてもう少し俺のことを待ってなかったんだっ」
つい、声を荒げてしまう。蘭は、ちょっと怯えたように身を竦めた。その姿が、少女のものだけに、新一はすごくいけないことをしたような気がして―――ハッとした。
「―――ゴメン。俺のために、してくれたんだよな」
蘭はちょっと首を振って、また口を開いた。
「―――ホントに馬鹿なこと、したと思ってる。わたし―――そこで、とんでもないもの見ちゃったの」
「とんでもないもの?」
蘭はこくんと頷いた。大分、意識がはっきりしてきたようだった。
そして―――意識がはっきりして来るにつれ、蘭は違和感を感じ始めていた。
―――何かがおかしい。何かが・・・
それがなんなのか、わからないまま、話を続けた。
「その人は、建物の裏の―――人気のない薄暗い場所にいたの。そこには、もう1人男の人がいて―――その人はアタッシュケースを持ってた。それを黒ずくめの男の人に渡していて―――」
「おい、それって―――」
「ん―――。何かの取引みたいだった。すぐに新一に知らせようと思って―――戻ろうと思ったら、いきなり後ろから棒のようなもので殴られたの」
「それが、髪の長いほうの奴か?」
「ん。それで、わたしは倒れて・・・気を失う前に、何か―――カプセルのようなものを飲まされたの」
「カプセル?」
「うん。男が、『組織が新開発した毒薬』だって言ってた。『死体から毒が検出されない完全犯罪が可能なシロモノ』だって・・・」
蘭は、その時の事を思い出したのか、ブルっと身震いすると、毛布をぎゅっと握り締めた。
「わたし―――殺されちゃうんだって思った。もう―――新一に、会えないんだって・・・」
「蘭・・・」
「でも・・・良かった・・・。わたし、生きてるんだよね―――」
「・・・ああ・・・」
新一は頷いた。だが、その表情は、どこか悲しげに歪んでいた。
「?・・・新一・・・?どうしたの・・・?」
「蘭・・・おまえ、今自分がどんな姿してるか・・・わかんねーか?」
「姿って・・・」
言われて、蘭は気付いた。この違和感。これは・・・そして、恐る恐る自分の手を目の前に上げてみた。
「―――――!!」
それは、今までの自分の手ではなく・・・小さな、子供の手だった・・・。そして、そっと毛布をめくり、バスタオルに巻かれた自分の姿を見下ろした―――。
「・・・これ・・・何?どうして・・・」
体が、ガクガクと震えだす。何がどうなってしまったのか、わからない。そういえば、声も子供の声・・・。感じた違和感はこれだったのだ―――。崩れそうになる蘭の体を、新一が支えるようにして抱きしめた。
「―――し、んいち・・・わたし・・・」
「蘭・・・大丈夫。俺が、側にいるから―――。守ってやるから―――」
蘭は、新一の真剣な声と、優しい腕のぬくもりに、少しずつ体の震えが治まってくるのを感じていた。
「その―――毒薬が、どんなもんなのかわかんね―けど・・・原因は、それ以外に考えらんねー。蘭・・・、その薬のこと、もう少し詳しく話せるか」
「・・・詳しくって言っても・・・」
「分かることだけで良いよ」
優しい口調の新一に、蘭は安心して話し始めた。
「ん・・・。飲んだときは、別に何も感じなかったの。それが・・・あいつらが見えなくなった直後位から、急に体が熱くなって・・・体が・・・骨が溶けるんじゃないかと思うくらい・・・。心臓がすごく苦しかった。鼓動が早くなって、息苦しくって・・・体が焼けるような感覚の後・・・意識がなくなったの」
「―――そうか・・・」
「ホントに・・・もうだめだと思った。だって、あの長髪の男は、必ず死ぬって言ってたから・・・」
「―――そいつは、本当にオメエが死んだと思ってるだろうな。闇取引きの現場を見られたんだ。ほおって置くわけはねえ。もし、生きていると分かったら・・・」
「分かったら・・・?」
蘭の体が、また恐怖に震え始めた。
新一が、抱きしめる腕に少し力を入れた。
「新一・・・わたし・・・どうなるの?こんな体になっちゃって・・・どうしたら良いの?」
蘭の瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。震えが止まらない。頭が、おかしくなりそうだった―――。
新一は、蘭を安心させようとするようにその髪を撫で、そっと瞳に口付けた。ビックリして、目を見開く蘭。そんな蘭を優しく見つめながら、新一は口を開いた。
「蘭・・・好きだよ」
蘭の目が、これ以上ないという位、大きく見開かれる。
「・・・え?」
「俺・・・蘭が好きだ」
こんな時に言う台詞じゃないかもしれなかったが、新一はそうしなければいけない、と思ったのだ。
蘭は今、パニックに陥っている。新一だってそうなのだが・・・。一度殺されかけ、助かったと思ったら自分の体が小さくなっていて、さらに、また命を狙われるかもしれないと分かったら―――。パニックにならないほうがどうかしているというもの。新一は、そんな蘭をどうにかして安心させてやりたい、守りたい、と思った。それを、蘭に伝えたくて―――告白したのだ。
蘭は、ビックリしすぎて、体の震えが止まってしまっていた。
「新一・・・?今、なんて・・・」
「好きだって言ったんだよ。ずっと・・・ずっと前から好きだった。そして、これからも―――。俺が、ずっと側にいる。オメエを、守ってやる。だから―――泣くな。俺が絶対、オメエを元の姿に戻してやるから・・・心配するな」
優しく、包み込むような笑顔で見つめられ・・・。蘭の体から、少しずつ力が抜けていった。そして、その瞳からは、また涙が零れ落ちた。
「新一・・・ありがとう。わたし・・・」
「泣くなっつったろォ?ったく、泣き虫なんだからなー」
新一が呆れたように言った。
「だってェ・・・」
そのとき、ドアが開いて、博士が部屋に入ってきた。
「新一、持って来たぞ。―――おや、気がついたのかね」
「ああ、博士、サンキュー。蘭、俺の服でワリィけど、着替えとけよ。俺たちは部屋の外にいるから」
「ん、ありがと・・・」
蘭が弱々しく微笑んで頷いた。
「おい、蘭って―――」
「博士、こっち来て」
驚いて何か言いかける博士の腕を取り、新一は部屋を出た。
「―――おい!新一、どういうことなんじゃ?あの子は一体―――」
「あれは、蘭だよ」
「蘭くん―――じゃと?馬鹿な!ありゃ―どう見たって子供じゃないか」
「ああ―――とにかく、こっち来てくれよ。説明するからよ―――」
新一は、地下の研究室に博士を連れて行くと、今までのことを全て博士に話した。
「そんなこと―――信じられんのォ。人間の体が縮むなんて・・・。そんな薬が存在するとは―――」
「ああ。多分そいつらは、蘭が死んだと思ってるだろう。なぜか分からないが、蘭にはその毒薬が効かなかった。そのかわり―――あんな体になっちまった。その薬の中の成分の何かが蘭の体を縮めてしまった―――。それしか、考えらんね―んだよ」
「ふむ・・・。で、これからどうするつもりなんじゃ?」
「博士に、頼みがあるんだ」
「わしに?」
「ああ。―――蘭の体を元に戻す薬を作ってくれね―か」
「な―――なんじゃと!?」
博士が驚いて、目を見開いた。
「そんなこと、簡単にできるわけないじゃろう!?」
「分かってるよ。けど、こんなこと他に頼める人、いね―んだよ。蘭を―――1日も早く、元の姿に戻してやりて―んだ・・・。頼むよ、博士」
博士は、新一の目をじっと見つめていたが―――やがて、ふうっと溜息をついて言った。
「分かった―――。できるかどうか分からんが、努力してみよう―――。で、これから蘭君をどうするつもりじゃ?」
「それなんだよな。あの状態の蘭を見たら、おっちゃん卒倒しそうだし・・・。それに、あの黒ずくめの奴らが蘭のことを調べて、あの家に行ったりしたら厄介だしな・・・。とりあえず、今日はここに泊めてやってくんねーか?その後のことは、蘭とも相談しないと・・・」
「そうじゃな。ああ、さっきコンビニでおにぎりを買って来たんじゃ。新一も腹が減っておるじゃろう?持って行って2人で食べたらどうじゃ?」
「ああ、サンキュー。博士は?」
「わしは、ここでやりたいことがあるんでな。ああ、蘭君には、わしのことは気にせず自由にやってくれて良いと言っておいてくれんか」
「分かった。―――博士」
新一は部屋を出ようとして、足を止め、振り向いた。
「ん?なんじゃ?」
「―――サンキューな」
「―――いいんじゃよ」
「蘭、入っていいか?」
新一は、居間のドアをノックして言った。
「うん」
中から、蘭の声が聞こえた。
ドアを開け、中に入ると新一の持ってきた水色のトレーナーと紺の半ズボンをはいた蘭が、ちょこんとソファーに座っていた。髪も、もう乾いていた。
大きな目でちょっと不安そうに新一を見上げる蘭。その姿のかわいさに、新一はこんな状況だというのに、胸が高鳴ってくるのを感じた。
「―――新一?どうしたの?」
小首を傾げ、聞いてくる蘭。
―――スッゲー、かわいい・・・
「あ・・・なんでもね―よ。おにぎり、食うか?博士が買ってきてくれたんだ」
「うん、ありがと。博士は?」
「下にいるよ。やりて―ことがあんだって。―――蘭、今日はここに泊れよ」
「え?」
蘭がビックリして目を見開く。そんな表情も、とてもかわいく見えた。
「そんな姿でさ、帰りたくねーだろ?オメーもさ」
「う、ん・・・確かに」
「明日、今後のことを話し合おう。今日は、オメエも疲れてるだろうし。博士も自由にして良いって言ってくれてっから、遠慮すんなよ」
「―――新一は・・・?」
蘭は、不安そうに新一を上目遣いで見上げた。
「俺は・・・すぐ隣にいるし・・・」
「帰っちゃうの・・・?」
蘭の瞳がますます不安に揺れ、涙が溢れてくる。
―――うう・・・んな顔すんなって~~~
「いや、その・・・ほら、博士もいるしさ」
「・・・帰っちゃうんだ・・・」
蘭はしょんぼりして、下を向いた。必死に涙を堪えているようだった。
新一は観念して、
「・・・いるよ、俺もここにいる」
と言った。
「ほんと!?」
蘭がぱっと顔を上げた。新一が頷くと、うれしそうにニッコリ笑う。
―――か、かわいすぎる~~~
「良かった・・・」
「あ、そ、そうだ。おっちゃんに電話しねーとな」
「あ、うん。そうだね」
蘭は立ち上がって、部屋の隅にある電話のところへ行き、家に電話をかけた。
「―――あ、もしもし、お父さん、わたし・・・」
子供の声、と言っても女の子は声変わりがないので、ちょっと大人っぽい声を出せば、何とか誤魔化せるようだ。
「・・・うん、そう。博士が具合悪そうだから・・・。お年寄り一人じゃ、何かと大変でしょ?だから・・・うん、ゴメンね、じゃあ・・・」
ふう、と溜息をつきながら、蘭は電話を切った。あまり嘘をついたことのない蘭にはつらい電話だったのだろう。だが、振り向いたときには笑顔で新一を見ていた。
「おにぎり、食うか」
と、新一が笑顔で言うと、蘭はニッコリ笑って頷いた。2人でおにぎりを食べながら、しばらく他愛のない話をした。新一はこんな場合ながら、小さくなった蘭の姿に見惚れていた。小さな手でおにぎりを持ち、小さな口で一生懸命食べる姿が、あまりにも愛らしくて・・・。このまま、どこかに閉じ込めてしまいたい位、かわいかった。
新一の視線に気付いた蘭は、頬を赤らめ、上目遣いで新一を見た。
「なあに?新一。じろじろ見て・・・」
「や、別に・・・あのさ、蘭」
「え?」
「あのさ・・・さっきの話だけど・・・」
「さっきの話?」
蘭がきょとんとした顔で聞き返す。
「その・・・俺は蘭が好きだって言っただろ?」
新一が顔を赤くして言うと、蘭も真っ赤になって下を向く。
「う、うん・・・」
「―――オメエは?」
「え?」
「オメエの気持ち・・・俺、まだ聞いてね―んだけど・・・」
そう。実は、新一はさっきからずっとそのことが気にかかっていたのだ。蘭が自分のことをどう思っているのか・・・。嫌われてはいないだろうというのは分かるが・・・。幼馴染という関係はとても微妙で・・・居心地の良い分、その関係を壊したくなくて、ずっと告白できずにいた。誰よりも蘭の近くにいるはずだが、蘭の中で、自分がどういう存在なのか・・・。ただの幼馴染なのか、それとも自分と同じように想ってくれているのか・・・。
迷宮無しの名探偵にも、それは解けない謎だった・・・。
「蘭―――?」
下を向いて黙ってしまった蘭に不安を感じ、新一が蘭の顔を覗き込むようにして見た。
蘭は、真っ赤な顔をちょっと上げ、新一を見た。
ドキンッと新一の心臓が跳ね上がる。
「・・・いしょ」
「へ?」
「内緒・・・って言ったのっ」
再び赤い顔をして、俯く蘭。
「な、内緒って―――!」
なんだよ、そりゃ?人が必死の思いで告白したっつーのに・・・。
「・・・戻ってから・・・」
「え?」
「戻ってから、言いたいの。本当の・・・高校生のわたしに戻ってから・・・。それまで・・・待っててほしいの・・・」
「・・・・・」
「・・・ダメ?」
小首を傾げ、上目遣いで新一を見る蘭。新一が最も弱い表情・・・。そんな顔をされて、新一がダメと言えるわけがない。
「・・・分かったよ。待ってる・・・。でも、約束だぞ?」
「うん」
そう言ってニッコリ笑う蘭。そして、またまたその笑顔に見惚れる新一。
―――少しは期待してても良いってことかな・・・
おにぎりを食べ終わり、お茶を飲んでから、
「―――もう寝るか?疲れただろ、今日は」
と、新一が笑顔で言うと、蘭はちょっと恥ずかしそうに、
「うん・・・。あの、お風呂、入って良い・・・?」
「あ、そっか。入ってなかったよな。待ってろ、今準備してくっから」
新一は立ち上がり、お風呂の準備をするべく、部屋を出て行った。それを見送ると、蘭は小さな溜息をついた。両手を、目の前にかざして見る。
―――小さな子供の手。どうしてこんなことになってしまったのか・・・。あの時、新一の言うことを素直に聞いて、あそこで待っていれば・・・。後悔しても、もう遅かったが―――
―――ゴメンね、新一・・・。新一の気持ち、すっごくうれしかった・・・。わたしもずっと好きだったから・・・。でも・・・。
蘭は、また溜息をついた。
―――いつ、この体が元に戻るか分からない・・・もしかしたら、ずっと戻らないかもしれない。そしたら・・・こんな体になってしまったわたしよりも、もっと新一に相応しい人が現れるかもしれない・
・・。もちろんそんなことあって欲しくないけど・・・もしもそうなってしまったときに、新一の邪魔にはなりたくない・・・。それに、そんなの惨め過ぎるよ・・・。
蘭の瞳に涙が溢れる。それを堪えようと、フルフルと頭を振る。
―――ダメ、泣いちゃ!・・・新一は、言ってくれたもの。守ってくれるって・・・ずっと、側にいてくれるって・・・。今はそれを信じなきゃ―――それを・・・新一を、信じるしかないもの・・・。
一方、新一は・・・お風呂の準備をしながら、大きな溜息をついた。
「チェッ・・・元の姿に戻るまで内緒・・・か」
あんなふうに言われると、余計に気になってしょうがね―じゃねーか。―――こうなりゃ、早くあの黒ずくめの奴らを捕まえて、蘭を元の姿に戻すっきゃねーよな・・・。よしっ明日っから気合入れてく
ぞ!
風呂洗い用のスポンジを握り締め、なぜか気合を入れて風呂掃除をする新一だった・・・。
""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
やっちゃいました~。この話は原作に沿って、半永久的に(笑)続きます。あ、でも基本的にこれは推理ものではなく、恋愛ものなので、中間の推理しているときの話や、管理人が「かけない!!」と思ったものは飛ばしていきます。
そんなわけで、お楽しみいただけましたでしょうか♪
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